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最高裁判所第一小法廷 昭和23年(れ)91号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

被告人李世玉辯護人田中栄藏の上告趣意について。

記録を精査するに、昭和二二年一一月一二日午前一一時の原審第一回公判期日において、辯護人田中栄藏不出頭のまゝ開廷の上審理を遂げ辯論の終結せられるに至った經緯については、洵に論旨所論の通りでる。しかし、右原審の公判には、共同辯護人中井宗夫が田中辯護人に代って出頭し被告人の辯護に當って居り被告本人も同辯護人の辯論はこれを抛棄する旨の意思を表明していることも亦記録上明らかであるからその間における原審の公判手續には「不法に辯護権の行使を制限した」というような違法は存在しないのである。論旨は要するに辯護人田中栄藏が別に擔當していた宇都宮地方裁判所に繋属中の刑事々件の公判期日が、原審公判期日と同一日時に繰上げ變更せられたことを理由として、しかもその理由を證明して、原審に對し期日變更の申請をなしたにも拘わらず、原審が該申請を却下してそのまゝ公判を開廷したため被告人の信頼する同辯護人は該公判に立會し得ず、又被告人も不本意ながら同辯護人の辯論を抛棄するの止むなきに至ったもので、形式上はともかく実質上は被告人に對する辯護權を著しく制限する違法を招來したものであるというのであるが、かように同一辯護人の擔當する別個の刑事々件の公判期日が各別異の裁判所によって同一日時に指定せられた場合にあっては、その間に處して適當なる考慮を拂い辯護人の支障を來さないよう措置を講ずべきは、固より推奨せらるべきところではあるが、本件の場合、宇都宮地方裁判所が同一日時に、その公判期日を指定したからというて、必ず原審が先に指定していたその公判期日を變更せねばならぬという理由は毫末もなく、又辯護人としても原審公判には必然的に出頭不能という譯でもないのであるから原審が右期日變更の申請を許容しなかったことは、當不當の問題はしばらく措いて、これを目して違法であると斷ずることはできない。論旨は獨自の見地に立って適法なる原審の手續を強いて違法なりとするものであって、上告理由として採用に値しない。

よって刑訴第四四六條に從い主文の通り判決する。

この判決は裁判官全員の一致した意見である。

(裁判長裁判官 岩松三郎 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 齋藤悠輔)

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